2018.09.25

ART

天狼院書店✕MUNSELL

クリエイティブとは、最強に地道な作業である

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「なんの仕事をしているの?」

うーん、と一瞬考え込んでしまう。なんて表現したら、伝わるだろう? 一般的によく交わされる、この質問。いつも、答えに困ってしまう。ひと言で言い表せないほど、ここでの仕事は多岐にわたっているのだ。

天狼院書店で働きはじめて4年が経つ。『READING LIFE』──「本の先の体験」を提供する書店をコンセプトにするこの書店にいると、本の発注・品出し以外にも、多くの業務を行うことになる。

「出版に興味があって……」

学生時代にこの場所を訪れた私は、そんな動機で、働きはじめた。さまざまな本の著者に間近でお話を聞くことができるとあって、ライブ体験は何よりの刺激だった。世の中の流行を生み出しているようなさまざまなクリエイターの方が、ふらっと立ち寄るような場所だった。いつも「ゼミ」や「部活」といったイベントを行っており、文章講座の「ライティング・ゼミ」、カメラを学ぶ「フォト部」など、その道のプロにノウハウを直接教えていただける機会であふれている。ここにいれば、日々新しい刺激に触れることができた。

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福岡で開催されたゼミの様子。連載1回目でも登場したフォト部の様子。

新しいこと、おもしろいこと……いわゆる「クリエイティブ」と表現される事柄に興味を惹かれていた私は、その渦の中に飛び込むことに決めた。

だけど、びっくりしたのだ──。しばらくしてイベントの運営を任されるようになり、ゼロからイベントの企画を立てる機会が多くなるにつれて、あることに気がつくようになった。数多くのクリエイターのお話を伺いながら、あれ? と思うようになった。この方々は、自分と何が違うのだろう? どうやってその道を極めたのだろう?

「クリエイティブ」と聞くと、なんだかとても華やかなイメージだ。一瞬でアイデアが降ってきて、革新的なもの・おもしろいものができあがる。おもしろいものを発信すれば、すぐに拡散され、多くの人の目に触れ、ファンができる。ずっと、クリエイティブ的発想というものは、何か、天から突然降ってくるもののような気がしていた。

だけど、多くのその道のプロにここでお話をお伺いしているうち、まったくそうではないことを思い知らされた。ある事実を突きつけられることになった。クリエイティブとは、地味なものである、ということだった。

「どうやったらプロになることができるんですか?」

講座の中でも、こんな質問が出ることがある。ライター、カメラマン、小説家、デザイナーなど……お呼びしたゲストは、口裏を合わせたわけでもないのに、みな、こうおっしゃるのだ。量だ。プロになるには、とにかく量である、と。

ライターになりたければ、とにかく書け、書け、書け。

カメラマンになりたければ、撮るしかない。撮り続けるしかない。

小説家でも、デザイナーでも、良いアイデアを生み出すための企画マンでも……。

どの道でも、プロに共通しているのは「打つ数の多さ」だった。失敗を繰り返し、経験値を重ねることで、どの方法が最適なのかを見極めることができるようになる。それを繰り返し学習することで、いつどんな時でも安定してハイクオリティの結果を出すことができる。

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地味な作業に思えるが、「量」をこなすことがプロへの道へ通じる

クリエイターとしてのブランディングについても、同じことがいえるのではないかと思うようになった。日々、市場の数値をデータとしてあげ、仮説を立てる。ここが上手くいっているから、こんなふうに良い結果が出ているのではないだろうか? 反対に、あまり上手くいっていないのは、ここが原因なのではないか? データの集積は、私が考えていた「クリエイティブ」とは遠く、一見「地味」だといえる作業だった。

けれども、この「地味」といえる作業の積み重ねこそが結果につながっていることは、間違いなかった。その道を極めている方ほど、データの集積の細かい部分にうるさい。仮説を導き出し、次のアクションに反映させる速度が速いのだ。

地味なことが得意な人ほど、実はクリエイティブに向いているのだ──。がく然とした。どちらかというと地味な作業が苦手な自分は、この仕事に向いていないのではないか、と何度も思った。

けれど、こうも考えられる。地味だけど、小さなことを重ねてさえいれば、一芸に秀でることができるということ。それはつまり、数さえこなせば、誰でもクリエイティブになれるということを言っているのだ。

今、私は、アイデアを形にする企画や運営の仕事のほかに、マーケティングや広告の分野も担当している。向いているとは思わなかった。けれど、仮説を立て、実践し、手探りだが日々実務を行っているうちに、どう反応が変わるのかを手にとって感じられることが、おもしろいと感じるようになった。何が向いているかわからない。目の前のものを、まずは数をこなしていくことが大事なのかもしれない。

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天狼院書店にはプロに通じる光が差し込んでいる

天狼院書店では、いつも熱が渦巻いている。

本から得た情報の先に、自分のなりたい姿を思い描いて多くの方が天狼院書店にいらっしゃる。

11月には、天狼院書店の大文化祭という、発表の場所を用意した一大イベントも待ち構えている。私も、その渦の中にいる一人だ。目の前で動いているこの渦を乗りこなし、まずは「数」を重ねていきたい。そこで初めて、自分にとって何が残るのかが、見えてくるのかもしれない。

Written by Misuzu Yamamoto
Photos by Natsumi Yamanaka

天狼院書店とは

京都、福岡、南池袋、池袋駅前、2018年4月には「Esola池袋」、さらに「スタジオ天狼院」を加えて全国に6拠点を構える新刊書店。「READING LIFE」をテーマに掲げ、本を読むだけではなく、その内容を「体験」を通してさらに楽しもうと、連日さまざまなイベントを開催している。

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